これはたしか200万人とも言われた大量の餓死者を出した1960年末期のビアフラでの大惨事の際の話であったと記憶している。ビアフラという国はすでにない。ナイジェリア軍事政権に反発するイボ族を中心に東部州に一時期建国された小さな共和国であった。この出来事は「ビアフラの悲劇」と呼ばれて世界的に注目された。日本でも新聞・テレビ・週刊誌などに報道され、多くの人がその惨状に心を痛めたのでした。

 一家団らんでテレビを見ていたとき、ドキュメンタリー番組でビアフラの子供達の映像が流されたのです。まだ、言葉が十分に話せない幼児も一緒に映像を見ていたとのこと。画面をじっと見ていた幼児が、突然立ち上がり台所に走っていって、餅を手に握りしめて戻ってきてテレビの画面にその餅を差し出し、ガリガリに痩せお腹だけが膨らんで気力も失い立ちつくしている子供に懸命にわたそうとしていたとのこと。それを見たその子の祖父でありその家の主人であった人が大変な衝撃を受けたのでした。こんな年端もいかない幼児が目の前に映し出される悲惨な状況に心を痛め、なんとかこの子供達を助けたいと自分に出来ることを必死にしようとしている。大人である自分は一体何をしているのだとの思いに駆られたそうである。

 この方は広い田畑を持つ農家の方であったようで、このとき安定した日本社会で暮らしている子供達に美田を残すより、それを手放して飢餓で命の危機に貧しているビアフラの人たちに救援物資を贈る方が重要なことだと心に強く感じたということである。この方は早速田畑を処分して当時のお金で2000万円ほどの義援金を贈ったのでした。そして、それには「孫に教えられ」という手記が添えられていたとのことです。当時の2000万円といえば、今の2億円ほどになるでしょうか。

 この出来事を聞いた小生は大変感動し、40年を経た今に至るまで忘れることができません。この事例は、子供の純粋な心が大人の心を揺り動かし行動を促す力を持っていることを証しているといえるでしょう。

  「イエスは一人の子供を呼び寄せ、彼らの中に立たせて、言われた。『はっきり言っておく。心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできない。』」マタイ15:3