第7話 人生のサイクルを考える
人はこの世に生まれ、限られた時間この世という空間に身を置いて生活を営んだ後、この世を去っていく。これは誰しも拒否できない、現実である。私は75歳を超えた後期高齢者となって最近孫が与えられた。孫の姿を見ていると、かつての自分を思い出すことはないが、子供達が生まれたときの記憶と重なってくる。その様子を見て、子の誕生は一緒だなあと感じる一方、かつて祖父母や父母を送ったように、私もこの世を去らねばならない時が近づいていることを感じさせられる。日本では死を考えることは忌むべきこととして昔から敬遠されてきたが、死はこの世を生きる人間にとってごく当たり前のことであり、目をそらすことなく常にしっかりと心に留めて置かなくてはならない事柄であろう。
動物であれば子孫を残し世代交代ができればそれで善しといえるかもしれないが、与えられた感性、理性、感情を用いて思考し、自由意志によって選択し、自らの行動を起こすことが出来、文明、文化を発展させ、人間社会を成長させてきた人間の歴史に着目する時、人は命を次世代につなぐ人生のサイクルが成立すればよいというようには思えない。一人一人が異なる存在として生を受け、個々が自らどう生きるかを問われて生きる人間は与えられた能力を用いて自らの責任において人生を歩むことが求められているように思われる。個々の人生はその人自身のかけがえのないものであり、子や孫に譲渡できるものではない。学んだ知識や知恵、技能を伝承することはできても、人生はその人一代限りで完結される。人生を通してその人の内に形成された人格そのものがその人自身であるといえ、これは子供たちに引き継がせることのできないものであることを確認したい。