第4話 人間の判断機能とAIの判断機能の違い

 最近では人間に代わる働き手としてロボットが広く活用されるようになってきた。製造技術、加工技術、選別技術、判定技術、等々の分野において並の人間よりはるかに精度よく効率的に仕事をこなすものが少なくない。近未来的には、病人の症状を入力すれば、正確に病名を特定し、適切な処方を解答する名医級の診断ロボットができるであろう。また、介護の分野にも介護ロボットなるものが出現しており、現在は、介護士の負荷を軽減するような業務をサポートするものが多いが、近い将来、介護師そのものに代わるロボットの出現が見込まれている。被介護者の下のお世話など、きつい汚い業務を生身の人間と異なり、いやな顔一つせず奉仕してくれ、状況に応じて優しい言葉をかけてくれるようなロボットもできるであろう。しかし、人間を理解するためにはここで、人間とAIの違いをはっきり見定めておく必要がある。優しく親切にみえるAIの介護行為は決して愛に基づく行為ではないのである。介護ロボットには介護サービスのプログラムが埋め込まれており、それを機械的にこなしているだけのものである。被介護者の状況や反応をセンサが検出して現状を把握すると、その状況に応じた演算を開始する。ベッドから起こして車椅子に移してほしいという要望であれば、まず、カメラが被介護者の位置、姿勢を把握する。次いでアーム機構を適正位置に移動させ腕で被介護者の体を抱き上げ、車椅子に座らせる。その動作は被介護者に不安を起こさせたり不快な思いをさせることがないように理想の介護士を想定して設計がなされるのは当然であろう。作業をこなすだけでなく、優しい言葉をかけながらこれを行わせることもできる。メモリに動作だけでなく言葉をも蓄積しておき、動作と連動して発声機能を動作させれば可能となる。普段、生身の介護士から、意地悪な言葉や傷つく行為を受けてきた被介護者は泣いて喜び、幸せを感じるようになるかもしれない。しかし、介護ロボットは決して相手に対する気遣いから愛をもって声掛けをしているわけではなく、単にプログラムされた演算を行い、その結果の動作を機械的に実行しているだけなのだ。将来的には理想の人間の対応を教え込むことにより、生身の人間以上に立派な行動をとるロボットが実現されることが推測される。その場合、人はこの人間もどきのロボットに幻想を抱いてしまう危険もあり、いささか空恐ろしい世界に迷い込む危険に注意が必要であろう。

人は嫌なにおいを嗅いだり、汚いものを見れば不快となるし、仕事がきつければ止めたいとの気持ちが起こる。人が行動を起こす時、選択する時この感情というものが判断基準の一要素として機能する。しかし、AIの場合、この感情という要素はないので、その影響を受けることなく動作できる。これは生身の人間と大きく違う点であるといえよう。また、人間の感性には五感だけではなく、俗に第六感といわれるような物理量以外のものを感じ取る能力が備えられている。これは起こっている現象が確かなものかどうかを状況の中で感じ取る機能であり、他者の思いを感じ取る機能である。感情という心の状態のほか、第六感という感性も人間特有のものといえるのではないか。この人間特有の属性と思える「感情」と「感性」についてはしっかりと認識しておきたい。