第6話 現代日本人の意識
現代日本人はどのような意識をもって日々の生活を行っているのか見てみたい。人間は個々に異なる人格を持つ者であるから、「現代日本人の意識」などと一般化すべきでないとのご指摘は当然であり、私もそのことを否定するものではないが、今の日本社会には個性が育ちにくく、社会が求めるマニュアル人間的な同質化が図られており、日本社会の共通意識というものが形成されているように思えるので、あえてそのような表現を取らせて頂くのである。
人は物心がついたとき、して良いことと悪いことはそれなりに判断できるようになっていたと言えよう。親が褒めてくれること、すると叱られることをわきまえて行動するようになっている。ほしい物は欲しいと意思表示することで与えられるが、人のものを横取りするとそれはいけないこと、また、他者が自分に示してくれた好意に対しては感謝するということが大事ということも教え込まれる。他者と共に生きる運命の有る人間は、そのための社会的ルールを教えられ学んでゆく。前述したように、親は子に「社会の一員として立ち、幸せに生きて行ける健康で心豊かな人間に育ってほしい」と願うものである。子の幸せを願う親はよい教育を受けさせて社会で安定した生活を送れる人に育てることを重視する。そのため、よい教育が受けられる学校へ通わせたい、通う学校ではよい成績を取ってもらいたいと親が願うのは無理からぬことである。この親の気持ちは以心伝心で子供にも伝わり、人はいつの間にか競争社会へと送り込まれていく。中学、高校、大学と進学するごとにより良い学校へ入学することが課題とされる。その指導を行う教師の存在は生徒にとって影響力の大きな存在となる。よい学校に進学すること、よい就職先を見つけて安定した社会生活の基板を獲得することが人生における極めて重要な要件として定着されている。このような社会的潮流に飲み込まれ、他者と共に生きることに優先して学業や進学競争に、更には社会人となってからも出世競争に勝つこととまでいわなくても、落ちこぼれにならないことが大事となり、そのためには上司から良い評価を得ることが重要となってくる。他者、とりわけ立場の上の人から良い評価を得ることが有効となるため、かなりそのことに比重が置かれることになる。所属する集団の中で自分を高く評価してもらいたい、自分の能力を認められたいという欲求だが、これはまさに、マズローの第4段階自我の欲求である。
定年となって、企業戦士としての任務を解かれた時、「よい教育を受け、社会で安定した生活を送れることが人の幸せ」という考えに立って、ひたすら進学競争に立ち向かい、より有利と思える職業を選択し、上司の評価を気に留めながら必死に仕事に専念してきた自分の生き方が、果たして正解だっただろうかと考えさせられた人は多いようである。退職後も疑問には思わず人生とはそうしたものと割り切って、後は好きなことをして余生を楽しみたいという方もいる。今、このような考え方や人生観の善し悪しは論じないことにしたい。本来、この問題は成人した各自の価値観に照らして個々が判断し、責任を取るべきことである。したがって、ここでは、人は置かれた状況の中で、ただ流れに身を任せることなく、自らがよく考えて意志決定すべきことであることを心にとどめて頂きたい。