第3話 人が物事を判断する仕組み
前章の考察を受け、ここでは人が行動を起こす仕組みについて考察を進めたい。個人差があると認められるものの、客観的な判断力、理性というものは、感性同様人間の属性、資質として生まれつき人に備えられているのではないか。親や教師といった大人たちから教え込まれ、植え付けられたものは脳のメモリに蓄積され、予備知識となってゆくが、人はそれらを判断材料として用い、自分はどのような対応を選択するかの判断は生まれながらに備えられている理性によってなされると思えるのだが、如何でしょうか。
この判断メカニズムについて人工知能AIをモデルとして考えてみよう。AIの機能を見る時、正しい情報をたくさん蓄積したものが正しい判断を行うようになることは事実として確認できる事柄である。AIは解答を求められれば、与えられた条件の下で演算を行って答えを出す。その判断基準となる演算式は、製造後に入力蓄積された情報によって造られるのではなく、設計者が制作時にプログラムしたものであり、何を正解とするかはその時既に決められている。ただ、高等なAIには補正機能を備えられたものもあり、経験により蓄積された追加情報によって補正がなされ、より賢い判断をするようになるものもある。しかし、何を正解とするかという基本演算式は製造時に設計されたものであり不変である。人間の頭脳においても生まれつきプログラムされた判断力、理性というものが備えられているのではないだろうか。だから、古今東西の道徳観は差があっても似通っていると思えるのである。動物と人間の行動を対比して観察すると、低級動物ほど判断基準は単純であり、高級動物になるほど補正機能が優れ、経験によって発達する現象がみられる。人の判断力は誕生時に持っていたものにとどまることなく、その後の経験を踏まえて賢くなってゆくことから、当初から補正機能が備えられているように見える。
AIはセンサを備えることで時々刻々の外部情報を得るが、これは人の五感に相当する機能である。カメラが視覚の目に、マイクが聴覚の耳に、匂センサが臭覚の鼻に、味覚センサが舌に、温度センサが皮膚の感温神経に、力センサが皮膚の感圧神経に相当する。AIを備えたロボット技術は進歩しており、人間の能力を超えるものもある。人間の目では見分けられない微細な物質を検知したり、人間の耳では聞き分けられない周波数の音を識別できる。演算や作業スピードにおいても人をはるかに超えたものが実現されている。人の五感は自然界の物理的情報を検知する機能であるが、AIは特定分野についてみる限り人間よりはるかに性能が高いものが実現できることが分かってきた。